◆ めったにカゼをひかない。その 「めったに」 がいまなので、カゼをひいている。ノドが痛い。セキが出る。サムケがする。 ◇ 風邪の原因はウイルス感染で、寒さは風邪の誘因に過ぎないが、古代の中国医学では、風邪(ふうじゃ)の侵入が原因と考えており、風邪と表すのはこれに由来しているそうだ。先人は人体に影響を与える環境を 「風(ふう)」 「寒(かん)」 「暑(しょ)」 「湿(しつ)」 「燥(そう)」 「火(か)」 の六つに分類し、「六気(ろっき)」 と称した。この度合いがひどくなると病気が引き起こされると考え、それぞれを 「風邪」 「寒邪」 「暑邪」 「湿邪」 「燥邪」 「火邪」 と呼んだ。風邪が侵入するツボが風門(ふうもん)だ。背筋が 「ぞくっ」 として、風邪を引きそうになった時、風門を刺激すると予防効果があるという。www.asahi-net.or.jp/~au2t-situ/coramu/huumon.htm ◆ 風邪を 「ふうじゃ」 と読むと、どんなにかわいらしい邪鬼だろうかといろいろイメージしてみるけれど、あいにくまだその姿を見たことがない。〔と書いてしまったあとで、邪鬼と邪気は違うことに気がついたが、これも風邪のせいにして知らぬふり。〕 ◆ 風邪といえば、寺田寅彦に 「半分風邪を引いていると風邪を引かぬ話」 というエッセイがあって、一部を引用すると、 ◇ 流感が流行るという噂である。竹の花が咲くと流感が流行るという説があったが今年はどうであったか。マスクをかけて歩く人が多いということは感冒が流行している証拠にはならない。流行の噂に恐怖している人の多いという証拠になるだけである。 ◇ 流行の初期に慌(あわ)てて罹る人は元来抵抗力の弱い人ではないかと思う。そういう弱い人は、ちょっと少しばかり熱でも出るとすぐにまいってしまって欠勤して蒲団(ふとん)を引っかぶって寝込んで静養する。すればどんな病気でも大抵は軽症ですんでしまう。ところが、抵抗力の強い人は罹病(りびょう)の確率が少ないから統計上自然に跡廻しになりやすい、そうしてそういう人は罹っても少々のことではなかなか最初から降参してしまわない。そうして不必要で危険な我慢をし無理をする、すれば大抵の病気は悪くなる。そうしていよいよ寝込む頃にはもうだいぶ病気は亢進(こうしん)して危険に接近しているであろう。実際平生丈夫な人の中には、無理をして病気をこじらせるのを最高の栄誉と思っているのではないかと思われる人もあるようである。 ◇ 危険線のすぐ近くまで来てうろうろしているものが存外その境界線を越えずに済む、ということは病気ばかりとは限らないようである。ありとあらゆる罪悪の淵の崖の傍をうろうろして落込みはしないかとびくびくしている人間が存外生涯を無事に過ごすことがある一方で、そういう罪悪とおよそ懸けはなれたと思われる清浄無垢(むく)の人間が、自分も他人も誰知らぬ間に駆足で飛んで来てそうした淵の中に一目散(いちもくさん)に飛込んでしまうこともあるようである。心の罪の重荷が足にからまって自由を束縛されている人間は却(かえ)って現実の罪の境界線が越えにくいということもあるかもしれないのである。 ◇ 今に戦争になるかもしれないというかなりに大きな確率を眼前に認めて、国々が一生懸命に負けない用意をして、そうしてなるべくなら戦争にならないで世界の平和を存続したいという念願を忘れずにいれば、存外永遠の平和が保たれるかもしれないと思われる。もしも、いつも半分風邪を引いているのが風邪を引かぬための妙策だという変痴奇論(へんちきろん)に半面の真理が含まれているとすると、その類推からして、いつも非常時の一歩手前の心持を持続するのが本当の非常時を招致しないための護符になるという変痴奇論にもまたいくらかの真実があるかもしれないと思われる。 ◆ カゼをひいても、こんな考えにたどり着けるなら、カゼをひいたかいもあったといえそうだが、ワタシのアタマでは少々無理がある。せいぜい(ぜいぜいしながら)思いつくのは、 ◇ 風が吹けば、風邪を引く。 ◆ かんたんに桶屋は儲からないということである。 |
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