MEMORANDUM

  モク拾い

♪ 燃え殻つぶしのモク拾い
  年老いたというには早すぎるけど
  僕達はつかれてしまった

  小椋佳 「モク拾いは海へ」(作詞:小椋佳)

◆ ギンナン拾いのことを書いていて、ギンナンとはなんの関係もないが、モク拾いというコトバを思い出した。路上に捨てられたモク、つまりタバコ(の吸殻)を拾う行為、さらにはその行為者を指すコトバだが、なんのために拾うのかによって、かなりニュアンスが異なってくる。近年はこんなふうに使うらしい。

◇ 木住野社長は、地元の五日市で「ゴミを拾って歩こう会」を6年前よりたった独りからはじめ、小中野から五日市橋まで、ゴミ拾いやモク拾いの奉仕活動を毎週実践している。
www.akiruno.com/repo/wshop/wshopwoodman.htm

◇ 私は以前から、自宅から駅まで毎日100本の吸殻拾いをしてきたが、いくら拾ってもきりがないので、お茶やジュースの空き缶を針金を通して100個ぶらさげた。そうしたら、歩き喫煙者が協力してくれて、路上にポイステが減った。1日100本拾うことは珍しくなり40~50本以下になった。(中略) まだまだ元気なので、モク拾いはこれからも続けたい。
www.koganei.com/bikai/kaihou13.htm

◆ 拾ったモクはどうなるか? もちろんゴミとして捨てられるのだろう。

◆ また、自分で吸うためにモクを拾う場合もあるだろう。

◇ その先生は煙草が好きで好きで、しかしあまりお金が無かったので、思うように煙草が買えなかった。で、その先生がどうしたかというと、野球の試合が終わった後の野球場へ行って、落ちている煙草を沢山拾い、その吸いさしを家に帰ってからばらして一つにまとめ、そうやって吸っていた、というんですね。いわゆる「モク拾い」ですな。
plaza.rakutenco.jp/professor306/diary/200510070001/

◇ タバコが切れるとシケモク拾いに行きます。シケモクだったら、コインランドリーがお薦めですよ。灰皿をめったに取り替えないので、イイのが残ってるんですよ(そんなレクチャーいらん)。
mimi33.exblog.jp/2546976

◆ けれども、この「モク拾い」というコトバのよりスタンダードと思われる用法は、その目的が街の清掃でも自らの喫煙でもなく、現金を得るための生活手段としてのものであって、その場合の「モク拾い」は一種の歴史用語といえる。

◇ 終戦直後、道に捨てられた吸い殻を拾い集める「モク拾い」という商売があった。拾った吸い殻をほぐして巻き直し、また、新しいたばこに再生させるのである。こうして作られたたばこは「シケモク」と呼ばれ、味は悪かったがたばこ不足の折柄、ヤミ市などでよく売れた。篠竹の先に針をつけた「モク拾い」専用の道具も登場した。
www.jti.co.jp/Culture/museum/tokubetu/eventDec/sikemoku.html

◇ 売札のおばさんから、こんな話を聞いたことがあります。戦後、上野には浮浪児がいっぱいいました。モク拾いや靴みがきをやってて、食べるためとはいえ、評判は悪かった。その子たちは動物園に行きたいけど、お金がないから隠れて入って行く。それを見た古賀さんは売札場のおばさんに、黙って入れてやりなさいとおっしゃった。お母さんと一緒にキリンを見ている子どもたちの目と、真っ黒に汚れた浮浪児たちが夢中になってキリンを見ている目とは同じだと。そして、「この子たちのために」という古賀さんの思いが、上野動物園のいち早い復興につながるんです。
www.1101.com/fujin-ido/13.html

◇ 終戦後、浮浪児などがやっていたモク拾い(タバコの吸い殻拾い)は吸い殻三本で一本のタバコになり1円20銭で引き取られ、月収3000円(当時)にもなった。そのメッカは後楽園球場。
tanu2sfiles.gozaru.jp/knowledge10.html

◇ 当時の内職にモク拾いというのがあった。棒の先に釘の尖ったほうを先にして、落ちている外国製のたばこ、すなわち洋モクを拾っては、家でカミを破いて煙草の葉を集め、インディアン紙でくるんで売買するのだ。
www.tamagawa-np.co.jp/machinohi/78.html

◇ こうして集めた吸い殻はどうするかと言うと、全部ほぐして、新しい紙に巻き換えるのである。その頃は政府もモク拾いを奨励していたのかどうか知らないが、煙草の粉を簡単に紙に巻ける機械を専売局が作って、煙草屋で売っていた。紙も専売局のを売っていた。併しそんなのを買っては高く付くから、紙はその時々の手に入り具合で各種のものを使用した。極上は、昔の三省堂の英和辞典を破いたものであるが、字引き一冊分の紙は直ぐになくなる。白水社の仏和辞典は、これに較べれば少し質が落ちる。併し何もなければ、古い障子の紙を使っても、その客は文句を言わなかった。
吉田健一 『三文紳士』(講談社文芸文庫)

◇ 瓢箪池の前には、モク(タバコ)売りが並んでいる。ピースや光の箱を並べてあるが、中味は云わずと知れた手巻き、それもモク拾いから買った吸殻をバラして捲いたものだ。そのわきで三十五、六の乞食パンスケが胸をはだけ、ダラリと垂れ下がった乳房もあらわに、しきりにシラミとりをやっていた。
平野斗史「浅草の朝から夜まで」(山田太一編 『浅草 土地の記憶』,岩波現代文庫)

◆ こんなのもある。昭和25年4月、第7回国会参議院本会議における日本共産党の参議院議員・岩間正男(北原白秋に師事した歌人でもあった)の発言。

◇  数千がモクを拾いて生きており
    一人が安定をうそぶけるとき
 最近は文芸の領域にも、このような失業苦と税金によるところの苦しい生活を歌つた、そういうような素材を主題にしたところの作品が非常に多くなつている。私は歌を毎月見ておりますが、その中の一首に今のような歌があつたのであります。モクというのは、これは政府の諸公は御存じないかも知らんけれども、煙草の吸殻のことである。上野や浅草に行けば、モク拾いが群がつているのであります。数千がモクを拾つて生きており、一人が安定をうそぶくとき、安定をうそぶいている池田蔵相に対して、予算委員会において、あなたはこれに対してどういう御感想をお持ちになるかということを聞いた。ところがこれに対して蔵相は答えることができなかつたことは当然でありましよう。じたばた論議であの物議を醸した蔵相としては、当然この歌に対して答えることはできなかつた筈であります。併しながら、このような姿が現在の吉田内閣、安定をうそぶいている吉田内閣の足許に起つているところの実情であるということをはつきり申上げなければならないのであります。(拍手)

kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/007/0512/00704030512037c.html

◆ そうそう、これは前にも書きましたが、

◇ タバコをモクと言うのは、かつては煙がモクモク出るからと思っていましたが、雲の倒語であるそうです。煙を雲に見立てたのです。
www.nikkoku.net/ezine/asobi/asb19_02.html

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