◆ 2月14日、目黒シネマで侯孝賢監督 『珈琲時光』 を観た。高円寺の古本屋、都丸書店が出てきてちょっとびっくりし、以前ここで岩波文庫の 『クォ ヴァディス』 を仏訳文庫本とともに購入したが、まだ一ページも読んでいないことを思い出し、それから、クレジットに蓮實重彦の名前を見つけ、いったいどこに出演していたのかと不安になったが、そのシーンはカットされたらしいと知って一安心し、あるいは、「珈琲」 を中国語では 「咖啡」 と表記するのだということをいつだかここに書いたことがあり、といったことを除けば、映画自体について言うべきことはとくにない。主演は一青窈と浅野忠信。で、一青窈(ひととよう)のハナシ。父親が台湾人で母親が日本人。一青(ひとと)は母方の姓らしいが、それにしても珍しい苗字だと思っていたら、最近読んだ本にこうあった。
◇ 谷川 〔・・・・・・〕 能登の鳥屋町の一青(ひとと)なんていうのはたいへんに心引かれる地名ですね。ヒトトはシトトからきたんですね。シトトというのはホホジロのことでしょう。黒氏(くろじ)もそうですね。能登には鳥の名前の地名が多い。羽咋なんかもそうですが。
谷川健一編 『地名と風土』(思潮社,p.169-170)
◆ ヒトトが鳥のホオジロのことだとしても、なぜ一青と漢字を当てるのかがわからない。気になって調べてみると、谷川健一の別の本にこうあった。少し長いが引用すると、
◇ 北陸地方の日本海沿岸は潟湖や沼沢地が多く、飛来する鳥たちの楽園であった。そこで鳥にちなむ地名も生まれた。一風変わっているのに、能登半島の中央部にある鳥屋町 (石川県鹿島郡) の一青(ひとと)、黒氏(くろじ)という地名がある。シトトはホオジロ、ホオアカ、アオジ、クロジなどのホオジロ類をひっくるめた呼称である。アオジはアオシトト、クロジはクロシトトのことである。アオシトトがアオヒトトに訛って青一(あおひとと)の漢字が宛てられ、それがさらに一青(ひとつあお)に転じ、それをアオシトトの意味で、ヒトトと訓ませたと推考される。
谷川健一 『続 日本の地名』(岩波新書,p.195)
◆ ついでに、浅野忠信。最近あちこちで缶コーヒーの看板を見かけるので、たまたまミュージシャンでもある若い仕事仲間に、なんの気なしに 「このひと知ってる?」 と訊いてみると、
◇ ああ、忠信さん? ともだちが忠信さんのバンドにいてね、こないだ沖縄でライブやってて、電話でしゃべったよ。
◆ おやおや、忠信さん、バンドもやってたのね。