MEMORANDUM

◇ 芸人アパートの下を流れていた渋谷川は、暗渠になっている。これも、東京オリンピックにともなう町殺しの犠牲の一つであり、現在は索漠とした遊歩道になっている。
小林信彦・荒木経惟 『私説東京繁昌記』(ちくま文庫,p.47)

◆ 東京に来た当時、川がいたるところで暗渠になっていることに随分驚いた記憶がある。橋の欄干が遺されているので、以前はそこが川であったのだろうと察することはできるのだけれど、そうして暗渠の下には相も変わらず水が流れているのだろうけれど、それはなんとも奇妙な光景だった。蓋をされた川は、それでもなお川なのだろうか? 小林信彦は続けてこう書いている。

◇ ジャングルジムがあったり、人間をこわがらない猫がいたりするこの遊歩道に立って、表参道の人通りを眺めるのは異様なものである。遊歩道の両側の家並みはさほど変わっていないので、自分が昭和三十年代にいながら、現代の繁栄を眺めている気分になる。遊歩道の上に小さな参道橋がかかっており、橋の上を行く現代風の服装の通行人しか見えないのが、時間の裂け目のようでもある。

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