MEMORANDUM

  旅の終わり

◆ 十日ほどの旅行を終えて、夕刻ウチにたどり着いた。ほんとは昼ごろ成田に着いたので、そのまま帰れば、三時にはウチにいることもできたのだが、ウチに急いで帰ったところで、だれか待つひとがいるわけでもないので、旅の終わりの余韻を味わうというわけでもないけれど、少々寄り道をして帰った。

◆ アパートの玄関のカギを開けるまでは、旅は終わらない。そう信じたい気持ちで、少しでもゆっくりとウチに向かう。玄関の前に着いてもまだ考えている。もしかすると部屋のカギを失くしたかもしれない。そうなら、踵を返してまた旅にでれるのではないか? だが、部屋のカギは財布のなかに苦もなく見つかった。

◆ ほんとうのところ、旅はいつ終わるのだろう。帰り道へと一歩踏み出したとき、もう旅は終わっているのかもしれない。

◇ 旅の終わりであれば、もどらなくてはならず、となると、たとえまだ旅のさなかであれ、厳密にはもはや旅ではない。「旅」そのものは、すでに終了している。そのせいか、仲間と一緒のときでも、誰もがたいてい無口である。
池内紀 『ひとり旅は楽し』 (中公新書,p.200)

◆ 今回の旅行にこの本を持っていった。旅には旅の本がいい。

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